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名前 |
猫ケ島弥四郎の大栗 |
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ジャンル |
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住所 |
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評価 |
4.5 |
石川県白山市尾添にある『猫ケ島弥四郎の大栗(ねっかしまやしろうのおおぐり)』は、地域の歴史や伝承が静かに息づく、県内でも屈指の大樹だ。この栗の木は、幹周り約5.1メートル、樹高約17メートルの堂々たる姿で、周囲の杉木立を抜いて空に向かって伸びている。平成4年(1992年)に白山市(当時は尾口村)の市指定天然記念物に指定されたほどの貴重な巨木で、現在まで250年以上もの長い年月を生き抜いてきた。栗の木は丈夫な木材としてかつて頻繁に伐採されていたため、これほどの巨樹が残っていること自体が非常に珍しく、石川県内でも貴重な存在とされている。この巨樹の名前は地元の地名である「猫ヶ島(ねっかしま)」に由来しているが、この地名には興味深い逸話が残っている。昔、この森では悪さをする猫たちに困り果てた人々が、猫を山の神に任せることを決意した。山の神の力で猫たちは改心し、やがてこの地でおとなしく暮らすようになった。そのため、この場所は猫たちが落ち着いて住む「猫ヶ島」と呼ばれるようになったという。また、「弥四郎(やしろう)」とは、江戸時代中期の宝暦年間(1751〜1764年)にこの栗を植えた人物「蜜谷弥四郎」の名前にちなむ。当時、小さな苗木であった栗は弥四郎の手によってこの地に根付き、今では地域の象徴的な巨樹へと成長を遂げている。この巨栗が大切にされてきた理由のひとつに、その特異な形状がある。幹元から三方向に力強く枝が伸びる姿は「三又(みつまた)」と呼ばれ、日本各地に伝わる「三又の木には神が宿る」という言い伝えと重なり、人々の畏敬の念を呼んできた。山里において、こうした特別な形の木は、山の神が宿る依代として特別視され、簡単に切ってはならないと戒められてきた。そのため、この栗の木も人々から特別な敬意を払われ、大切に守られてきたのである。この栗の木は単に歴史的価値や伝承を秘めるだけでなく、森の恵みや生命力を象徴するシンボルツリーとして地域の人々に深く親しまれている。毎年青々とした葉を茂らせ、多くの栗の実をつけるその姿は、自然がもたらす豊かさそのものであり、山里の生活を支える貴重な存在でもある。栗やクルミなどの実りはかつて貴重な食料源であり、森の動物たちにも大切な栄養源を提供している。弥四郎が植えた一本の栗の苗木が今なお豊かに実り、地域の人々の生活を見守り続けている姿には、自然への感謝と畏敬の念が込められている。また白山市周辺には、同様の伝承や歴史を持つ巨樹が多く残っている。近くの瀬女地区にある「瀬女の夜泣きイチョウ」も、天狗が夜泣きをしたという逸話が残る御神木として親しまれており、こうした巨樹にまつわる話は、森と共生してきた人々の暮らしや思想が色濃く反映されたものと言えるだろう。猫ケ島弥四郎の大栗は、単なる古木としての価値を超え、人々の生活や信仰、そして自然の恩恵そのものを映し出す存在であり、これからも地域の象徴として語り継がれていくに違いない。