打尾川が生んだ、釜ヶ淵の自然美。
名前 |
釜ヶ淵 |
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ジャンル |
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住所 |
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HP |
http://www.nanto-e.sakura.ne.jp/furusato/data/mu86001/detail-6153.html |
評価 |
4.0 |
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富山県南砺市の嫁兼(よめがね)地区にある釜ヶ淵(かまがふち)は、打尾川(うつおがわ)が作り出した自然の芸術とも言える名所だ。ここを訪れると、まず目を引くのが丸く深い淵の姿。まるで鍋底をえぐったような見事な円形をしているのが特徴で、これは地質学で「甌穴(おうけつ)」や「ポットホール」と呼ばれる特殊な地形だ。釜ヶ淵の地質は、約6,000万年前の新生代第三紀にこの地域で活発だった火山活動に由来する。安山岩質の非常に硬い火山砕屑岩と溶岩が堆積し、それが長い年月をかけて打尾川の流れで侵食された結果、いくつもの小さな滝や深い淵が生まれたというわけだ。特に直径約2メートルのポットホールは、川底のくぼみに入り込んだ小石が水流の渦で回転し続け、岩盤を丸く削ってできたもので、富山県内でもかなり珍しい。実際、似たような地形が県の天然記念物になっているところもあり、その希少性がわかるだろう。そして釜ヶ淵には、その地形的な特徴以上に地元の人々に親しまれている理由がある。それがこの淵に伝わる民話だ。昔、この淵には川の主(ぬし)と呼ばれる神秘的な存在がいて、村人が困ったときにお願いすると膳や椀を貸してくれたという。しかし、嫁兼のある若い嫁が、その借りた椀を返さなかったところ、家の中で火にかけていた鉄釜が突然暴れ出し、自ら跳ねて外へ飛び出した。そして釜はそのまま川へ転がり落ち、この淵に沈んだ。嫁はあわてて追いかけ、渦巻く水の中へ飛び込んで消えたという。この不気味で教訓的な話から、「借りたものは必ず返すべき」という教えが語り継がれ、この場所は釜ヶ淵と呼ばれるようになった。こうした伝承から、嫁兼という地名そのものが「嫁と釜の淵」に由来するという説もあるほどで、地域の人々にとって釜ヶ淵は単なる景観地以上の存在感を持っている。また、この地域の歴史を辿れば、戦国時代に佐々成政(さっさなりまさ)の家臣、小塚弥太郎(こづかやたろう)が築いた小丸城の跡が近くに残されているなど、歴史と密接に結びついた土地でもある。さらに、淵を取り巻く環境そのものも、地域の人々に大切にされてきた。川の主は水神や龍神のような存在として信仰され、地元の人々は川辺の小さな祠や水神の石碑に手を合わせてきたという。釜ヶ淵のある打尾川周辺は昔ながらの里山風景が残り、静かな山里の風情を存分に味わえる。観光地として整備され過ぎていない点も魅力のひとつだ。南砺市としても、この釜ヶ淵を名勝地や天然記念物として市の文化財に指定しているほどで、その地質学的な希少性や地域文化への影響の大きさがよく分かる。学校の郷土学習にも使われ、地元の子どもたちはここで地域の伝承や自然環境を学んでいるという。歴史的にも、民俗的にも、そして地質学的にも貴重な釜ヶ淵は、まさに南砺市の隠れた名所だ。自然が作り上げた神秘の地形を眺めながら、ふと昔話に耳を傾けてみるのも一興だろう。