富山の巨樹、花咲く南砺の梨。
鉢伏のなしのきの特徴
富山県南砺市北野の鉢伏のなしのきは天然記念物です。
巨大な野生梨の古木が、地元で親しまれています。
5月には花が平野部からも見える伝統があります。
城端町細野杉山に自生している梨の巨樹で、古来、5月の花の頃には平野部からも花を確認できたと教育委員会の立札は伝える。実物はこの看板があるところで車を降り、約300m程登ったところにあるらしい。しかしストリートビューでも確認できる通り、登山装備でなければ厳しいだろう。ここより少し登ったところに鉢伏の梨の木の2世が道路沿いで育てられている。五箇山への道しるべにもなった鉢伏の梨の木だが、城端町民も忘れ始めている。古来から人の往来を見守ってきたこの梨の木が代々伝統が受け継がれて行くように願っている。
| 名前 |
鉢伏のなしのき |
|---|---|
| ジャンル |
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| 営業時間 |
[日月火水木金土] 24時間営業 |
| HP | |
| 評価 |
3.8 |
| 住所 |
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富山県南砺市北野にそびえる鉢伏(はちぶせ)のなしのきは、地元で昔から親しまれている巨大な野生梨の古木で、富山県指定天然記念物にもなっている。地元の人は気軽に「なしのき」と呼び、かつてはこの一帯が「梨の木平(なしのきだいら)」という名前だったほど、地域に深く馴染んでいる存在だ。この梨の木は標高約600メートルの鉢伏山の稜線近くに生えていて、周囲には他に大きな樹木がなく、ひときわ堂々とした姿をしている。巨木と呼ばれるにふさわしく、幹の太さは約6.8メートルもあり、高さも推定10メートル以上。地上6メートルほどで大きく三本の枝に分かれ、そのそれぞれがさらに分岐して広がっている。幹の根元には苔がむし、年月の重みが感じられる風格がある。毎年5月末ごろになると、この梨の木は白く小さな花を一面に咲かせ、まるで雪をかぶったように美しい光景を見せる。その満開の様子は遠く離れた福光地域からも見え、昔の人々はその花の様子でその年の農作物の出来を占ったという伝承が残っている。秋の10月頃には直径3〜5センチほどの小さな実がたくさん実るが、酸味と渋味が非常に強いため、生のまま食べるには適していない。昔はこの実を焼いて風邪薬として使ったりして、生活に役立てていたそうだ。また、この梨は「石梨(イシナシ)」とも呼ばれ、実に石細胞と呼ばれる硬い細胞が多く含まれている。そのため果実も木材も非常に硬く、昔から家の戸や敷居などに利用されていた。生活に密接に関わる梨の木は人々から敬意をもって大切にされてきたのだろう。特に冬の時期には、雪深い五箇山と城端地方をつなぐ山道を行き交う人々にとって、この梨の木が重要な目印だったという。冬の険しい道を往来する旅人は、この木を目標にして進み、安全を願って通過したと伝えられている。鉢伏山周辺は歴史的にも重要な地域で、戦国時代には山頂付近に鉢伏砦(はちぶせとりで)という砦があった。さらに近くには杉山砦跡(すぎやまとりであと)という中世の山城もあり、昔は軍事的にも重要な土地だったことがわかる。こうした歴史的背景を考えると、このなしのきが単なる大木というだけでなく、地域の歴史や文化の象徴的な存在だったことがよく分かる。また、地域文化の面でも、なしのきは身近な存在だった。木そのものを神木として祀るという記録こそ見つかっていないが、地域の人々は梨の木に愛着をもって接してきた。前述のように風邪薬として実を利用したり、硬い木材を家づくりに役立てるなど、生活と深く結びついた文化が受け継がれている。周辺には他にも文化的な見どころがある。鉢伏山近くの縄ヶ池(なわがいけ)は、水芭蕉の群生地として県指定天然記念物となっており、春には美しい風景を楽しめる。また利賀地域には坂上の大杉(さかがみのおおすぎ)という巨木があり、熊野神社の境内に立つ樹齢数百年のこの杉も地域の重要な文化財だ。さらに少し離れるが、城端地域には瑞泉寺(ずいせんじ)や善徳寺(ぜんとくじ)など浄土真宗関連の重要な寺院も点在し、こうした寺院とともに、豊かな自然と文化が混ざり合って地域の魅力を形づくっている。鉢伏のなしのきは、こうした地域の自然と文化の象徴として、今も昔も変わらず静かに山中で存在感を放ち続けているのだろう。